和解契約(示談)の注意点~守秘義務条項

ほとんどの紛争は,和解により解決します。日常的な用語では示談などと言ったりします。

以下でも書いたように,和解は紛争解決において,最良の方法であると思います。

 

和解のコツ
紛争解決手段    紛争解決手段は,大別して,以下の二つがあげられます。 誰かに判断して貰う=判決,審判,決定等 自分で決める=和解(示談) 和解のメリット  弁護士として,和解を勧めずに,粛々と訴訟等を進行することは容易ですし,ストレスも少なく,精神衛生上も望ましいことではあります。 しかしながら,紛争解決,特に依頼者の利益をはかるという観点から考えると,判決を得るというのは大変リスクのあることですので,和解...

 

和解する場合において,守秘義務条項を盛り込むことが多いです。

本件に限っては解決するが,類似の案件についてまで同じように取り扱わなければならなくなることを避けたり,あるいは,紛争があったこと自体を広めたくないためです。

従来,守秘義務条項は紳士協定的な意味合いを持つことが多かったです。

たとえば,今もあるのかどうかはわかりませんが,今週の目標として廊下を走らないなどというように定めるようなもので,実際に,義務が守られなかったときにどうとかは定めず,訓示的意味合いのものでした。

従来は,人の発信力に限界があり,守秘義務違反と言っても,それ程損害を観念できなかったと思います。

しかしながら,今日では,インターネットおよびSNSの発達により,個人でも大きな発信力を有する場合があります。

そのような場合に備えてどうするか,考えてみました。

和解契約とは

和解契約は、当事者間の争いを終息させるために、双方が一定の譲歩をして合意に至る契約です。
法的根拠は民法第695条で、「互いに譲歩して争いをやめることを約すること」で成立します。
和解契約は最終的な解決を目的とし、以後の紛争を防ぐために重要な役割を果たします。

和解契約の守秘義務条項の意味と実務上の取扱い

1. 守秘義務条項の位置づけ:

守秘義務条項は、和解内容や交渉過程を外部に漏らさないことを約束するものですが、実際には「紳士条項(合意の精神を守るための道徳的な約束)」とされる場合が多いです。
法律的な拘束力はあるものの、違反があった場合の実行性や罰則の適用には限界があります。

2. SNS時代の課題:

現代ではSNSの発展により、情報漏洩が容易で、守秘義務の実効性を保つことが一層困難になっています。

  • 特に、当事者や関係者が感情的な投稿を行い、和解内容が拡散されるリスクが高まっています。
  • このため、和解契約書に「SNS上での情報発信禁止」を明確に規定する事例が増えています。

3. 実務上の取扱い:

守秘義務を実効的にするため、以下の工夫が有効です。

  • 違反時のペナルティ明記:違約金や損害賠償請求を条項化。
  • 例外の明示:裁判所命令や専門家への開示が認められる場合を具体的に規定。
  • 再発防止措置:SNS違反が発覚した場合の投稿削除義務などを盛り込む。
  • もっとも…感情面への配慮:上記のように守秘義務を実効的にすることは,反面で,相手方の感情を害することになります。和解契約自体が相互に信頼して譲歩するものですので,感情を害することは和解契約を困難にする大きな要素となります。そのため,守秘義務を実効的にすることと円満な和解契約をすることは矛盾をはらむことが往々にしてあり,慎重な対応が必要です。

和解契約を解除できるか

1. 法律上の解除可能性:

和解契約も一般の契約と同様に解除が可能ですが、通常の契約以上に慎重に扱われます。解除理由としては以下が考えられます。

  • 債務不履行:和解金の不払いなど(民法第541条)。
  • 詐欺や強迫:契約締結時に欺瞞行為があった場合(民法第96条)。
  • 重大な錯誤:和解の基礎事実について当事者が誤解していた場合(民法第95条)。

2. 解除の実務的考慮:

和解契約を解除することは、紛争の再燃を意味します。せっかく和解に至ったのに、解除してしまえば元の紛争状態に戻るだけでなく、新たなトラブルが派生するリスクもあります。そのため、解除を求める際には以下を慎重に検討すべきです。

  • 契約解除で得られる利益が本当に大きいか。
  • 再度の和解や裁判で時間や費用が無駄になる可能性。

3. 代替手段の活用:

解除よりも、履行請求や損害賠償請求といった手段を選ぶ方が、実務上は円滑で有益です。

総括

和解契約の守秘義務条項は現代の社会情勢(特にSNSの影響)を踏まえて注意深く設計する必要があります。一方、解除は最終手段として慎重に判断すべきで、契約内容の履行を促進することで、和解の意義を守ることが重要です。

実効性を高めるために

  • 紛争解決後も信頼関係が続く形で条項を設定。
  • 契約書作成時にSNS時代のリスクや救済手段を盛り込む。

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