法人(会社)破産の流れ ~生きている(現在事業継続している)法人を破産させたい

法人破産については,大変複雑で必ずしも正解がありません。

現在事業継続しているというところから考えると一層複雑かつ不明瞭です。

当事者の方の理解が困難であり,不安が大きいことに鑑み,その理解,不安解消の一助になるよう,破産法と破産実務をふまえて,現実的な対応をふまえた流れを記します。

1からしっかりと説明するとなると,大変難しいことになってしまいますので,要点をある程度デフォルメしてお伝えします。

 

法人破産のタイムライン
  • 危機を感じる

    自転車操業になり,破産が頭をよぎります。

    事業は必ず成功するとは限らず,失敗した場合の清算として,破産は優れています。いわゆる夜逃げなどすることと比べたら,はるかに社会性のあるけじめの付け方であると思いますので,破産を検討することは恥ずべきことではありません

    通常どおり事業を営みます。

    不払いが発生してもやむを得ないですが,ファクタリング(債権担保)や高利貸しに手を出すことで,事態が悪化しているケースを散見します。

    そのような場合,再起の見込がたたないまま,ただただ現状乗り越えてもその先に見えるものはないような気がします。

    破産費用さえ用意できなくなることもあります。

    後に破産する場合でも,破産手続が難航する要因となります。

  • 2
    破産を検討

    破産をするには,予納金と破産申立費用がかかります。

    当職は,お守り,保険だと思って破産費用だけは残しておいてくださいねと説明することが多いです。

    会社規模などによって金額は変わりますので,弁護士にご相談下さい。

  • 3
    破産を決意・事業停止・支払停止

    支払いを停止せざるを得なくなって,その結果事業停止をせざるを得なくなり,その結果破産を決意するというのがごく自然な流れです。

    しかしながら,そのような流れですと破産のための費用が残らないということになってしまうおそれもあります。

    他方で,破産手続においては,簡単にいうと,債権者平等の原則が貫かれ,ある特定の債権者だけが利益を受けるということは避けなければなりません。

    分かりやすくいえば,破産することがわかっていてながら敢えて特定の債権者だけに,弁済することが禁止され,そのような弁済行為は後で効力を否定されるおそれがあります

    これらを,偏頗行為否認,偏頗弁済,詐害行為否認,詐害行為などといいます。

    その関係で,破産を決意するのをいつにするのか,事業停止をいつにするのか,支払停止をいつにするのかは,ケースバイケースで判断が必要です。

    弁護士にご相談ください。

    なお,計画倒産,計画破産という言葉があり,悪い意味として用いられることが多いように思われます。

    しかしながら,上記のように破産処理はいわゆる夜逃げ等することと比べれば,経営者として遥かに優れた選択であると考えられます。破産のために費用を捻出し,法律の範囲内でしっかりと責任をとるということは責められるべき行為ではないと思います。

    当然,私腹を肥やすために計画して破産するという行為は絶対に許されるものではありませんが,破産手続を遂行するために計画するというのはむしろ,誠意のある行為であると考えます。

    場合によっては,破産費用を捻出するために,事業停止後の売掛金の回収をあてにしなければならないケースもあります。

    また,場合によっては,事業を継続したまま破産を申し立てたり,事業が終了したと同時に破産を申し立てたりすることもあり,いずれも経験したことがあります。

    このあたりは一概に説明し難いところですので,具体的事案をもとにご相談ください。

    売掛金の処理,銀行口座の処理

    売掛金や銀行口座の処理について,破産費用の確保との関係で重要となることがあります。

    銀行が債権者の場合は,銀行への支払いが滞ることにより,預金と相殺される可能性があります。

    引き落としがある口座であれば,預金があれば引き落とされます。

    それを避けるためには,当該銀行の預金口座を空にすることが有効です。

    売掛金が入金される口座が当該銀行の預金口座であれば,他の口座に変更することも一考です。ただ,預金口座の変更は,先方に不審感を与えてしまう可能性もあり,ケースバイケースの判断が必要です。

    債権者への対応

    当事者の方が気になることとして,債権者にどう説明したら良いのかということがあります。

    会社から債権者に対して破産する旨の通知を送ることもありますし,弁護士が破産する旨の通知を送ることもありますし,全く通知を送らずに破産申立をすることもあります。

    破産手続を前提に考えると,債権者の方々は,原則として破産手続の中で権利行使するしか救済手段がありません。

    その関係で,説明するとしても,早期に破産手続を申し立てるので,破産手続の中で権利行使をしてくださいという説明に尽きてしまいます。

    当然,債権者の心情的には納得できるわけもなく,いかに説明したとしてもなかなか難しい面があります。

    道義的側面においては,しっかりと説明をするべきであるとは思いますが,この段階においては,確実かつ早期に破産申立をすることが,一番の債権者保護であると考えられます。

    こういった理由から,債権者に対して効果的な対応があるというわけではありません。

    説明するとすれば,やはり,早期に破産申立を行うつもりであるということでしょう。

     

    労働関係の処理

    事業停止にあたって,労働関係の処理が一番問題となりやすいです。

    まず,法的には,解雇となります。

    手続としては,以下のとおりです。

    • ハローワークに対し,雇用保険被保険者離職届,雇用保険被保険者資格喪失届を提出  
    • 労働者に対し,雇用保険被保険者離職票,源泉徴収票の交付。健康保険者証カードの回収。
    • 労働債権は,一般債権より優先して支払うことができるので,余力があれば支払う。支払う場合,未払賃金は,労働者健康安全機構による立替払い(8割)の制度が利用できるため,解雇予告手当(平均賃金の30日分)をまず支払い,それでも余裕があれば未払賃金を払う。
    • 要するに,事業停止時の自由に使用できる現金が解雇予告手当+未払賃金+破産原資を超えていれば,解雇予告手当と未払賃金を支払う。超えていないが,解雇予告手当+破産原資を超えていれば,解雇予告手当だけを支払う。
    • よくわからなければ,労働者には,支払いを検討したうえで説明する旨の通知をするにとどめることもありうる。
  • 4
    破産申立準備

    事実関係の整理

    上記の,売掛金の処理,銀行預金の処理,債権者への対応,労働関係の処理は,事案によっては事業停止後に行ってもよい行為です。

    事業停止にあたっては,様々な問題が発生したり,精神的に不安定であったりと平常ではありませんので,無理していろいろな準備をするよりは事業停止をして落ち着いて行った方が良い面もあります。

    賃貸借物件の処理

    賃貸借物権は,そのままにしておくと賃料が日々刻々と発生してしまうので,早めに処理することが望ましいです。

    もっとも,賃料に争いがある。物件の中に高価なものが保管されている等種々の理由により,賃貸借物件を処理せずに破産申立をすることもありえます。

    地域によって方向性は異なるところがありますが,名古屋地方裁判所では,できる限り手を加えずに早期に破産申立をすることが推奨されています。

    在庫品・自動車の処理

    これらを破産申立の前に処理する必要があるかはケースバイケースです。破産費用の捻出のために自動車や在庫品を処分することもありますし,賞味期限のある食品のように時の経過とともに価値が著しく毀損するものについては早期に処分します。

    裁判所への申立準備

    破産申立をするには,決められた書類を提出し,債務超過の状態を説明する必要があります。

    事業停止直後は,債権者も混乱し,慌ただしい状態になります。他方で,その慌ただしい状態も期間の経過により収束することがほとんどです。

    確実に安全に申し立て準備を進めることが肝要です。

    これまでのケースでは,債権者の把握ができない,財産の把握ができないといったこともありました。そのケースでも結果として時間をかけずに破産申立をすることができましたが,通常の何倍も苦労することになりました。

    事業停止にあたっては,債権者や財産を的確に把握しておくことが必要です。

     

  • 破産申立

    破産申立により,ひとまず,破産手続のレールに乗せる作業は終了です。

    予納金が決定され,予納金を納める必要があります。

    破産申立までの時間は,ケースバイケースですが,上記のように事業停止と同時に破産申立をすることもあれば,ある程度時間をおいて行うこともあります。当職は,早期に行うことが多いですが,極端に早期に行うことが必ずしもよいことかどうかは精査する必要があります。

  • 破産手続開始決定

    これにより,正式に破産手続が開始します。

    破産管財人という裁判所が選任した弁護士が,今後の業務を行います。

    会社の財産について,破産管財人が管理処分権限を有することとなり,当事者は,破産管財人に協力をする義務が発生します。

  • 7
    破産手続の進行

    破産管財人が財産の調査をし,換価をします。

    債権者集会

    数ケ月に一度,裁判所にて期日が開かれます。期日の種類は複数あり,会社の元代表者は,原則として出席義務があります。

    会社の元代表者として一番関心が高いのは債権者集会であると思われます。

    債権者集会は,債権者が出席できる権利を有しており,ケースによっては大勢の債権者が出席し,疑問点があれば破産管財人や会社の元代表者に質問をしたりします。

    ただ,通常は,ほとんど出席者がおらず,特に会社元代表者が発言することなく期日が終了します。

    配当

    破産管財人が換価する等により,配当に足る財団が形成されると,債権者に平等に分配されることになります。厳密には,財団債権,優先債権を支払った後に残余財産があれば,というのが正確です。

    これについては,会社の元代表者は,特段関わることがありません。

  • 8
    破産手続の終結

    配当をし,あるいは,配当に足る財産が形成されなければ,破産手続は終結します。

    破産手続の開始から終結まで,早ければ数ケ月,遅ければ,数年あるいはそれ以上というタイムスケジュールです。

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