和解のコツ

紛争解決手段

   紛争解決手段は,大別して,以下の二つがあげられます。

  1. 誰かに判断して貰う=判決,審判,決定等
  2. 自分で決める=和解(示談)

和解のメリット

 弁護士として,和解を勧めずに,粛々と訴訟等を進行することは容易ですし,ストレスも少なく,精神衛生上も望ましいことではあります。
 しかしながら,紛争解決,特に依頼者の利益をはかるという観点から考えると,判決を得るというのは大変リスクのあることですので,和解による解決は判決による解決に比してメリットが大きいことが多いと考えられます。
 以下,一般論として,和解による解決が優れていると思われる点について述べます。

納得性

 和解は,自らで結論を決められ,相手方も一応は納得している状況が作出されます。一方で,判決は他人任せであり,双方の意向に反する判決というのも珍しくありません。

結果への支配可能性

 

 和解には結果への支配可能性があり,判決には支配可能性が必ずしもありません。
 判決による解決の場合,遵法精神のない義務者は義務にしたがわないことも往々にしてあります。支払能力が無い場合もありますが,何より支払意思が重要であると考えられるところ,他人に決められた結論に従わないという義務者は少なからず存在します。

 任意に支払わないとなれば,強制執行による手当の不十分性の問題,無資力の問題が顕在化します。

 和解による解決であれば,実質的な経済的利益の確保のための方策を手当することも可能ですし,一般に自ら約束した義務の方が,押しつけられた義務よりも履行可能性が著しく高いものです

 ここでも,和解は履行に対する支配可能性が高く,判決は低いといえます。

将来における紛争予防

 判決は,第三者たる裁判所による強制手段であることから,新たな紛争を生み出す要因となることもあります。

 和解であれば,清算条項(相互に権利義務無し)を設けることが通例ですし,感情的な納得性もあるので,判決に比して,新たな紛争の呼び水となる可能性は少ないといえます。

 その点で,和解の方が,将来における紛争予防という点のメリットがあるといえます(これも相手方が将来変なことをいってこないという点についての支配可能性が大きいといえます)。
 相手方がどのように動くかは,相手方次第であり,良くも悪くも自由なわけですので,少しでも支配可能性が高い方策が優れていると考えられます。

 

和解のポイント

 和解について検討する際に重要な要素は,物差しのスタート地点を紛争事件発生前ではなく,現時点に設定すること相手方を含めた他人には必要最小限の事項のみについて信頼し,その他の多くを期待しないこと,などであると思います。

 紛争において,人々が一様に思うのは,紛争前の状態に戻せ,ということですが,それは,時間が不可逆である以上,不可能です。紛争が起こってしまった以上は,その客観的な事実を前提に考えるべきであり,スタートを紛争前に設定することは紛争解決を著しく困難にする要因であると思います。

 紛争後の現時点を物差しのスタート地点とすることにより,どの方策がベターかを冷静に判断することができると思います。

 また,この物差しの考え方ともリンクするとも思いますが,和解の場面においては,過去の悪事を非難するというよりも,将来の賠償等に向けて履行を求めるという積極的要素が重要です。

 その場面で,履行に直接関係しない事項は問題にする必要がありませんし,問題にすれば,和解は壊れる方向に動きます。

 和解する時点以降においては,少なくとも和解に関する事項については相手方を信頼する必要がありますし,これまで紛争状態であったことからすれば,その他に期待をすべきでない,と思います。
 以上は,経験的,理念的な事柄であり,十人十色,必ずしもこのような考え方がよいというわけではありませんので,ご参考までにという趣旨です。
 本当に和解を進めることにより納得していただけているか否かは,知り得ないし,不安なことです。
 弁護士として,このような考え方はまだ「若い」といわれてしまうようなことなのかもしれませんが,自らの命運は自らで選択した方がよいと思いませんか?

 

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