はじめに
弁護士業は,原則として,過去の事実関係を清算することに関わることが多いです。相続,離婚,破産,交通事故など,いずれも,過去の清算です。当然,これらも弁護士業の醍醐味でもあり,重要な業務です。
ただ,ときには後ろ向きではなく,前向きの業務もしてみたいものです。それが,顧問業務であり,より一層前向きなのが創業支援です。
当事務所では,できることなら,創業支援に特化したいと考えており,これを執筆している2020年1月の時点でも,新たな会社設立を含めた創業(二次創業)に複数関わっています。
創業は事務作業が繁雑な面があるため,一度まとめておこうと考えて,本ページを作成することにしました。
創業についての概観
創業については,資金調達,営業戦略,人材確保等多種多様なハードルがあります。
これらについて,すべてをカバーするには役不足,餅は餅屋ということで,弁護士のサポートに適すること以外は捨象させていただきます。
インターネットが発達した今日,情報を得ようと思えばいくらでも得られますので,是非お調べください。その際に,インターネットは玉石混交であることに留意していただければと思います。検索して一番上に出てくるスポンサードされた情報ばかりを見ないことをお薦めします。
堅いものをご紹介すると,日本政策金融公庫の「創業の手引き」がまとまっていてよいと思います。
法人化のメリット
創業する際に,個人事業主として行うか,法人化するか悩まれることが多いと思われます。
私見では,スモールビジネスは個人事業主で,スタートアップは法人化して行うのがよいと思っています。
言い換えれば,大きな成果を目指すなら法人化です。堅実なところを目指すのであれば,手間や費用がかかりにくい個人事業主が適しています。
以下,法人化のメリットをあげます。
経営者の責任の限定
会社形態に拠りますが,別の権利義務帰属主体を作ることで,個人で行う場合に比べ,責任は軽減します。
リスクの程度を予測できることは,チャレンジする際に重要なポイントです。
対外的信用性の確保
それがよいことかどうかはさておき,現在の社会通念では,法人ということで信用性が増します。少なくとも法人設立というステップを踏んでいるという点で安心が生まれるといえます。
対外的信用性は,資金調達,人材確保を容易にします。
個人資産との分別管理
弁護士業をしていると,頻繁に個人の資産と事業用資産が混同しているケースに出会います。相続,破産,各種契約について,両者が混在していると,良い結果を生みません。
このような非常事態でなくとも,日常時においても,個人資産と事業用資産が混同しているよりは,分別されていた方がすっきりと,しっかりと管理することができると思われます。
資金調達の容易化
株式や社債など資金を調達できる手法が個人と比べ増えます。
税務面のメリット
所得分散,欠損金の繰り越し控除など有利な税制が存在します。
事業整理の容易化
事業を譲渡したり,廃止したり,承継したりと事業を人と切り離し,事業の流動化をすることができます。
エンジェル税制
エンジェル税制は,起業家応援税制といわれるもので,一定の要件を満たす未上場のベンチャー企業に投資を行った場合に所得税の優遇措置を受けることができる制度です。
これについては,中小企業庁のwebサイトで詳しく書かれています。
法人の設立
株式会社であれば,定款を作成し,認証を受け,出資金を払い込み,法人登記をするという流れで設立手続を行います。
この点も,インターネットでお調べいただければと思います。
設立後の届出
設立後の届出について,複雑で失念しやすいので,まとめてみました。手続は日々変わるものもありますので,最新の情報をチェックしてみて下さい
提出先 | 提出書類 | ◎は必須 |
税務署 | 法人設立届出書 | ◎ |
青色申告の承認申請書 | ◎ | |
給与支払事務所等の開設届出書 | ||
源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書 | ||
棚卸資産の評価方法の届出書 | ||
減価償却資産の償却方法の届出書 | ||
有価証券の1単位あたりの帳簿価額の算出方法の届出書 | ||
消費税関係の届出書 | ||
個人事業の開廃業届出書(法人成りの場合) | ||
都道府県・市町村 | 法人設立届出書 | ◎ |
労働基準監督署 | 適用事業報告 | |
就業規則届 | ||
労働保険関係成立届 | ||
労働保険概算保険料申告書 | ||
時間外労働・休日労働に関する協定届(36協定) | ||
公共職業安定所(ハローワーク) | 雇用保険被保険者資格取得届 | |
雇用保険適用事業所設置届 | ||
健康保険・厚生年金保険 新規適用届 | ||
健康保険・厚生年金保険 被保険者資格取得届 | ||
健康保険被扶養者(異動)届 | ||
国民年金3号被保険者資格取得届 |
弁護士としての関わり
本当は弁護士としてではなく経営者としてリスクを負って事業をしてみたいと考えており,いつかはと思っています。
ここでは,弁護士としての関わり方を挙げます。
会社法の手続のサポート
たとえば,取締役の権限,責任,任期等会社法の知識は事業運営に必要不可欠です。
当然,経営者の方は法律の専門家ではありませんし,法律を勉強するくらいなら,経営に注力すべきです。
会社法等の法的事項は弁護士に任せるのが必要であり,合理的です。
創業メンバー間の交通整理,紛争解決
創業はなかなか単独では難しいものです。しかしながら,人と人が接すればトラブルが起こるのが世の常です。
そうならないよう,出資と利益分配について,できる限り綿密な取り決めをしておくことが必要です。これをタームシートなどとよびます。
万が一トラブルになっても,タームシートがしっかりとしていれば,自ずと解決されます。
このタームシートは,弁護士の得意分野といえます。
商標等知的財産を巡る権利関係の目配り
スタートアップに際し,真似されないかというのは多く耳にすることです。個人的には,真似されるような業態であれば,需要があるわけですので,どんどん真似して貰って,それを圧倒する品質をつくればよいと思います。
ただ,不安な点は取除いた方がよいですし,先に権利者が存在する可能性もあります。
商標などは,真似云々というよりも,愛着性,覚悟という意味でも取得されると思われます。これまでにも何件か商標取得に関わったこともあります。
法的権利を目配りして安全に事を進めるのが肝要です。
ビジネスモデルの適法性のチェック
新規性のある事業は,何かしらの法的規制に引っかかることも多いです。仮想通貨を巡る事業,コード決済を巡る事業,webサイト上でのやりとり等,今日のインターネットを介した事業は法の網が及んでいないものも多く,適法性の判断が難しいです。
当然,違法なものは助力することはできませんが,修正することにより,法の範囲内で行うことが可能なこともあります。
新たなビジネスモデルの実施が,現行の規制との関係で困難である場合に,必要に応じて現行の規制の見直しや変更を行って,ビジネスモデルを実現させるサンドボックス制度というものもあります。
いずれにしても,違法な事業をしてもよいことはありませんので,適法性チェックは必須です。
定款,各種契約書のチェック,作成
まさに通常の弁護士業務です。
ランニングしている各会社に顧問弁護士がいるように,スタートアップ時においても弁護士の関与があった方がよいといえます。
その他紛争に対する対応,予防
これもスタートアップに限った話ではありませんが,弁護士はありとあらゆる紛争を目にしています。そして,それを解決する仕事をしています。
どのような場面でどのような紛争が発生しやすいか,そのようにすれば予防でき,解決できるかという点が磨かれ,感覚的なものも含め,技術,ナレッジが蓄積されています。
スタートアップのような複雑な利害関係が交錯する場面こそ,この技術,ナレッジを活用して下さい。
弁護士費用
これまでもスタートアップには関わってきましたが,なかなか費用の設定が困難で,いわばボランティア的に関わることも少なくありませんでした。しかしながら,ボランティア的では積極的に関わることも難しく,また,事業を成功させるのであれば,必要経費は避けられないものと捉えるべきであると考えるようになりました。
適正な金額を定めて支払っていただいた方が,依頼者の方も頼みやすいでしょうし,弁護士としてもやりやすいです。
そこで,費用設定はあまり得意ではありませんが,以下のとおり定めさせていただきたいと思います。
おわりに
個人の志向として,後ろを向くより,前を向きたいと考えています。
幸か不幸か後ろを向く仕事を選択し,それはそれで有意義な日々を過ごさせていただいております。過去を清算することはひとつの前を向くための準備でもあります。
が,できることなら単純な前向きな活動に携わることができることは望外の喜びです。
微力ですが,スタートアップに尽力できればと思います。
お気軽にお問い合わせ下さい。