はじめに
事業に際し,金銭あるいは物を借り,また,物を買い(仕入れ),物を売り(販売),人を雇うなどの法律行為が必要不可欠です。
将来のトラブルやリスクを回避するために,法律行為を行うにあたっては,その内容を書面として残しておく,つまり,契約書を作成することが必要不可欠です。
契約書はただ作成すればよいものではなく,当方にとって不利な内容でないか,将来どのようなリスクが生じる可能性があり,その対策が採られているのか等多岐にわたりチェックすべきポイントがあります。
トラブルが発生してしまってからでは遅いので,契約書の作成にあたっては,一度法律の専門家である弁護士に相談し,チェックを受けるのが望ましいです。
念には念をいれよ,の姿勢で,契約書をチェックします。
取引先との力関係等様々な事情により,契約書をみてもらっても,従わざるを得ないようなケースもあるとは思いますが,契約書をチェックすることにより,その契約のリスクの分析にもなりますので,仮に契約書を修正する余地がない場合にでも契約書のチェックは有用です。
契約書の作成の必要性
トラブルの防止
仮に,「約束が違う!」などといったトラブルとなった場合,契約書の内容を確認すれば,どちらの言い分が正しいかは一目瞭然です。
故に,契約書を作成しておくと,そもそも「約束が違う!」などと言い出すことが少なくなり,トラブル自体が防止されます。
紛争解決
仮に紛争となった場合,契約書が無いと,何が事実であったかを客観的に知ることができませんが,契約書があれば,「契約書には●●と書いてあることからしても,あなたの言い分は違うよ」といった形で紛争拡大に歯止めがかかり,解決に向かいやすいものです。
また,契約書が無いと,訴訟になったとしても,客観的証拠がなく,敗訴しやすいといえます。反対に,契約書があれば,勝訴しやすいといえます。
たとえば,万全な形で金銭消費貸借契約書がある場合,貸金返還請求は認められやすいといえます。
信頼感のアップ
契約書を交わすことにより,自社のコンプライアンス体制を示すことができ,信頼感がアップします。
仕事の円滑化
契約書を交わすことにより,義務内容を明確化することができ,その結果,誰が何をどれくらいやればよいのかが明らかになり,仕事は円滑に捗るようになると思われます。
契約書の内容
何を定めるか?
原則としては,私的自治の原則の下,何を定めてもよいですが…。
必ずあった方がよいもの
双方の義務内容(誰が,いつ,どこで,何を,どのように,どうするのか。),契約解消の方法,約束が守れなかった場合のペナルティ。
法律上の効力を有するもの
たとえば,車を買う場合,顧客は,車の代金の支払義務,店側は車の引渡義務。
→訴訟になることを見据えて作成。
独自に法律上の効力を有しないもの
努力規定
「甲乙双方は~ように努力する」
「甲乙は誠実に協力する」
違法・公序良俗違反
違法な内容,公序良俗に反するものは原則として法律上の効力を有しません。
法律の規定と同じもの
法律上の効力を有しないものは定めなくてもよいか
法律上の効力を有しないとしても,相手方に対し,注意を喚起し,意識させることができるという点もあります。
契約書作成のポイント
- 必要事項を過不足なく定めることが肝要です。
- 自己に不利な点は徹底的に排除するよう試み,駄目ならリスクを分析しておくことが大切です。
パワーバランスの関係で,契約書の内容についてあれこれ言えないケースも多いです。
しかし,不利な点があることを認識しておくことは非常に重要ですから,必ず,自己に不利な点をチェックし,洗い出しておくことが必要であると思います。
そのうえで,相手方に駄目元で提案してみるのも一考です。 - プラスアルファとして,当方に有利な条件を織り込むことができればなおよいです。
但し,当方に圧倒的に有利である場合,法律上の効力まで発生するかは微妙なケースも多いといえます。たとえば,優越的地位にある者が劣後者に対し,自己が有利な条件をのませたとしても,それは公序良俗違反になることが考えられます。他方,劣後者は優越的地位にある者に対し,自己が有利な条件をのませられません。
したがって,そもそもプラスアルファは,優越的地位にある者がその地位にまかせて,あるいは,優越的地位にはないが相手方を騙して織り込むなどのことも多く,後々訴訟で武器にならないことも多いともいえます。
よって,プラスアルファを盛り込む場合も,将来的には,そのプラスアルファが自己のリスクになる可能性もありうることを理解しておくべきであるともいえます。