過去:まず走らせる
かつて、私は自身のウェブサイトで、次のようなことを書きました。
「弁護士(法)は間違いなくブレーキである。(中略)
そうはいっても、ブレーキは、アクセルすなわち推進力が一定以上になって初めて優位性を認められるものです。
幼児の遊ぶ四輪・二輪玩具にはブレーキ機構がないのはその証左です。(中略)
まずは、ノンブレーキで走ってみて、速度が出て来たら、規模が拡大してきたら、ようやくブレーキの存在、法整備の段階に入ることになります」

要するに、
「事業が小さいうちは、細かい法規制で萎縮させるよりも、まずは走らせることが大事だ」
そう考えていました。
この考え自体は、今でも完全に間違っていたとは思っていません。
考えを一部修正
ただ、2025年の今、私はこの考えを一部修正する必要があると感じています。
理由は単純です。
現代の新規事業は、もはや「幼児の玩具」の速度では走らないからです。
インターネットとSNSの拡散力により、
新しいサービスや業態は、リリース初日から、
時速300kmで走るF1マシンのような状態で市場に放り出されます。
「法律違反を厭わなければ簡単」という構造
最近話題になることの多い、退職代行ビジネスなどを見れば分かりやすいでしょう。
法規制の隙間を突く、あるいはあえて無視する業態は、
その「手軽さ」ゆえに、驚くほどのスピードで広がります。
アクセル全開で、ブレーキなし。
速いのは、当たり前です。
法律を守るためのコストや、適正な手続きを踏む時間を、すべて省略しているのですから。
正直に言えば、
法律違反を厭わなければ、事業を成功させること自体は簡単です。
これは理念の話ではなく、構造の話です。
今の時代は「整える前に終わる」
しかし、今の社会は、その前提を許しません。
コンプライアンス意識は高まり、
警察や行政の動きは以前よりもはるかに早くなりました。
そして何より、「違法」や「怪しい」に対するネット世論の反応は、非常に苛烈です。
「大きくなってから整えればいい」
そう考えている間に、
ブレーキを取り付ける前に壁に激突し、
事業が終わってしまうケースを、私は何度も見てきました。
顧問弁護士の役割は「止める」ではなく「壊れない設計」
ここで、少し視点を引いてみます。
新規事業の相談に来られる方の多くは、
「やるか、やらないか」で迷っているわけではありません。
すでに、走る覚悟は決めています。
そのとき、弁護士に求められているのは、
正論でも、道徳論でもありません。
この事業は、どこで壊れるのか。
どこまでなら、表で堂々と走れるのか。
そして、壊さずに走り続けるルートはあるのか。
それを、少し引いた位置から一緒に見極めることです。
だから、今の時代に必要なのは、
「止まるためのブレーキ」だけではありません。
最初からトップスピードで走る前提で、
最初のカーブを曲がり切れる構造を、どう作るか。
批判されても、説明できる設計 になっているか。
顧問弁護士の役割は、
事業を止めることではなく、
壊れない形で走り続けるための前提を整えることにあります。
誰もやっていないことをやろうとしているなら、
なおさらです。
あなたが今、踏もうとしているそのアクセルは、
本当に、そのまま踏み切っても大丈夫でしょうか。





