家族信託って?

総論

家族信託というものが広まっています。その中で,認知症等で法的判断能力が十分で無くなってしまう場合に備えて家族信託をしようという動きがあります。

家族信託とは法的概念ではなく,一般に信託法を用いた財産管理の方法を家族信託と称しているようです。概念が曖昧なので,さしあたり,信託契約として,以下進めます。

認知症等で法的判断能力が十分で無くなってしまった場合には,後見,保佐,補助という制度があり,厳格な手続,監督体制のもとで,財産管理を行っています。

このこととの関係で,信託契約では,手続,監督体制とも緩やかであるのが現状であり,整合していないようにも考えられます。

運用とともに信託契約の脆弱さが明らかになり,規制されていくのではないか,とも考えられます。

そのような観点から,信託契約に対しては積極的ではなかったのですが,うまく利用すれば,便利な制度であることに間違いはありません。

将来規制されるのであれば,その際に対応していくという態度も悪くはありません。

諸事情により,信託契約に携わりましたので,備忘録として記します。

ご相談

質問
質問

母親が自己所有不動産を賃貸している。

現在,母親が高齢で,子が代わって管理している。

認知症に備え,母親の財産管理を子がオフィシャルな形でしたい。

それには家族信託がよいと言われている。

家族信託のメリット,デメリット,具体的にどうなるのかを教えてほしい。

原則的な処理

・認知症になった場合,法律行為を行うことができなくなる。

裁判所に申し立て,後見開始決定を受け,後見人が法律行為を行う。親族間に争いが無い場合,子が後見人になることも可能。
後見人は裁判所,後見監督人の監督を受ける。
・認知症になる場合に備える任意後見契約(あらかじめ,認知症になるまでの財産管理と認知症になった場合に特定の後見人が就任することを合意)も可能。
この場合も,後見開始にあたり,裁判所に申立が必要。
この場合も,後見人は裁判所,後見監督人の監督を受ける。

本件で信託契約を行うメリット

・母親の不動産管理を名実ともに契約締結段階から無くすことができる(任意後見契約でも可能であるが,不動産登記はそのままであるなど,信託契約ほど本人の財産から分離されない)。
・仮に母親の判断能力がなくなったとしても,不動産管理業務は影響を受けない。
後見のように監督を受けない(これをメリットとして挙げてよいのか微妙ではありますが。)。
※監督について後述

本件で信託契約を行うデメリット

・仮に母親の判断能力がなくなった場合,母親の全ての財産を処分できるわけではない。判断能力がなくなった場合,信託していない財産について処分等するには原則として後見手続が必要となるのは変わらない。
・まだ実務上の運用が定着しておらず,様々な問題が発生したり,規制が発生したりする可能性がある。

信託契約を行う場合の処理の流れ

母親と子で信託契約の締結

→信託口座(信託であることを明らかにした口座)開設に備え,公正証書で
※公正証書で行ったとしても,信託口座の開設を認めない銀行も多いようです。が,公正証書を作成しておくことで,後の紛争を予防できる(契約時点の意思能力の担保)ため,やはり公正証書に拠る方がよいと思います。
※公証人役場に赴く必要,公証人に支払う費用が必要
※固定資産税課税明細書,不動産登記簿,印鑑登録証明書,印鑑登録した印鑑

不動産登記(信託登記)

→司法書士による
※印鑑登録証明書,委任状,固定資産税課税明細書

信託口座の開設

※銀行によっては,開設不可能。公正証書に拠る場合でも不可とされる場合もある。
その場合は,子の預金口座を新たに開設して運用せざるを得ない。
現在のところ,分別管理ができていればよいとされている。

信託現金を口座へ
建物の火災保険等の契約者変更手続き

※必要に応じてでよいと思いますが,母親の手間を避けるという意味では,すべて関わりそうなものは変更してもよいと思います。

賃借人に対し,振込先口座の変更を通知
固定資産税の支払

※登記をすることにより,受託者に請求される。

法が定める義務

・帳簿・預金出納帳を作成(信託法37条1項,信託計算規則4条)
→「法第三十七条第一項の規定による信託財産に係る帳簿その他の書類又は電磁的記録(以下この条及び次条において「信託帳簿」という。)の作成及び法第三十七条第二項の規定による同項の書類又は電磁的記録の作成については、この条に定めるところによる。」(信託計算規則4条1項)
「信託帳簿は、一の書面その他の資料として作成することを要せず、他の目的で作成された書類又は電磁的記録をもって信託帳簿とすることができる。」(信託計算規則4条2項)
→預金通帳にメモでもよいとされているようです。
・「受託者は、毎年一回、一定の時期に、法務省令で定めるところにより、貸借対照表、損益計算書その他の法務省令で定める書類又は電磁的記録を作成しなければならない。」(信託法37条2項)
→「法第三十七条第二項に規定する法務省令で定める書類又は電磁的記録は、この条の規定により作成される財産状況開示資料とする。」(信託計算規則4条3項)
→実務上は,貸借対照表、損益計算書までは要求されず,収支をまとめた収支計算書で足りると考えられているようです。
・報告義務(信託法37条3項)
・その他善管注意義務,忠実義務等
※監督人,受益者代理人という上記義務の履行を監督する立場の者を定めることができるが,定めなくともよい。

税務申告は,受益者が行う

※信託の計算書と信託の計算書合計表を税務署に提出(所得税法227条)

まとめ

このように,信託契約は,裁判所等の監督を受ける後見等の手続とは異なり,当事者の意思により,財産の管理を行うことが可能となる方式です。

このような方式が,今後どう運用されていくのかは未知数ですが,今後広まっていく可能性はあるかもしれません。

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